花咲いたブタちゃん走り ●マンガ・アニメの感想・考察・レビュー●

毒舌・批判・絶賛あり。作者さんの意図とか考えを想像するのが好・き!

大今良時「聲の形」6巻感想 「言葉の発音」を知らないがゆえ、モノローグがないヒロイン

大今良時「聲の形」6巻感想 

 

聲の形(6) (講談社コミックス)

聲の形(6) (講談社コミックス)

 

 

10/17に発売した最新刊!

正直この巻に収録されている分は、全てマガジンでリアルタイムで読んでいたので展開を知っていました。

全ての人物が生き生き…というか生々しく生きていてリアルに心が痛む作品です。


■すさまじい演出力
マガジンで読んでいるときもびっくりした演出があって、正直立ち読みだったんですけど涙が出てしまって、単行本でもやはり泣けてしまいました。

こんな鋭い演出は、近年なかなか見れたものじゃない。なんて質の高いマンガなのだろうと作者の努力を思うとまた感動します。

 


その演出はどこかと言うと、画像があればいいんですけど。

主人公の耳が聞こえない女の子・西宮さん。
1~6巻では、正直何を考えているのかわからない女の子でした。とにかくいつもニコニコしていて、攻撃性のない女の子です。7巻では、ようやく彼女の、小学生時代から今(高校)に至るまでの心中が吐露されます。


それが、モノローグ(言葉)になっていないのがスゴイ。


言葉になっている部分とすれば、ナオカちゃんに送った手紙があります。
※ナオカちゃん…小学校時代の同級生で、西宮さんのことが嫌いなキツイ性格の女の子。

とはいえそれも手紙なので、心中とまでは言えませんが、西宮さんが自分の考えを言葉にしたのも初めてでした。


「自分は耳が聞こえないので、常に“今何が起こっているか”を把握できない。後になって、“こんなことになってた”と知るだけ。だからヘラヘラ笑うしかできなかった。ごめんなさい。」

そんな内容。
それに対して、ナオカちゃんは、「悲劇のヒロインぶってんじゃねえよ」と西宮さんをボコボコにぶん殴るわけですが。


その後、西宮さんは一人で家に帰ります。
そして想像をします。
もし自分がみんなと一緒だったら。
耳が聞こえていたら。


「おあよう~~~」
「おあよ~」

「わっ」
「もお~~あにうんおお~~」

「こおはあっこうあおいあっあ~?」
「うん~あおおいあっあ~」

「おやちゅみい~」
「おやちゅみ~」


ここがもう衝撃で。
泣けてくるんですけど、なぜ泣けてくるのか、私自身2回読んだだけではわからなくて。今冷静に考えてようやくわかったんですけど。


すごく不気味でいびつなんですよね。
西宮さんの想像は。
もし自分がみんなと一緒で、声が聞こえているなら。
みんなと仲良く、毎日楽しく過ごせていたのかな?

でも、西宮さんは声が聞こえないので
「言葉の正しい発音」を知らない。

なので、西宮さんの想像上の
「ちゃんとみんなと会話できる自分・世界」では、
みんなが正しい発音をしない。
正しい発音の世界を想像できない。
だから全員が「耳が聞こえない人の発音」で話す。

その想像が6ページほど続くのですが、
西宮さんの理想の世界が、
あまりにも有り得なくて、
やもすれば狂っているような世界で、
想像の最後のページをめくると、
ハっと現実に、我にかえった西宮さんがいて、
かわいそうでかわいそうで、ならないわけです。

思いだしても泣けてきます(T_T)

 

■「言葉の発音」を知らないがゆえ、モノローグがないヒロイン

第一巻から、「声が聞こえない」ことをうまく演出に使ったマンガだなと思っていました。私たち読者は手話がわかりません。

西宮さんが手話をする。男主人公の石田くんや、周りの手話をわかる人達が「ああ、あそこのパンね。美味しいよね。」など、解説してくれる。

それがあって、私たち読者は初めて、西宮さんの発している言葉がわかります。なので、西宮さんが手話をした後、石田君がハッとした顔をして黙ってしまうと、読者は「え?西宮さん、なんて言ったの?」とすごく気になるわけです。

そのミステリアスさというか、「西宮さんて何を考えているんだろう?」と気になってしまう。

非常にマンガならではの、うまい演出です。


と、始めはただの演出だと思っていました。
が、演出は演出ですが、考えてみれば、西宮さんは「正しい言葉の発音」を知らないわけなので、モノローグできるわけなかったのです。


そこが、演出以上にこの作品のテーマになっているのかもしれない。
「耳の聞こえない人」「話せない人」「うまくしゃべれない人」「黙っている人」そういった人達が「何を考えているんだろう?」と気になってみる。考えてみる。

それはすごく繊細な作業だけれど。

そんな、優しいけど脆い世界を描きたかったのかもしれないなあ。


そして、それは、現実の対人関係と全く同じですよね。
モノローグなんかないから、相手が実際のところどう思っているのかなんてわからない。「人と会話する」というのは、もともとひどく繊細なことだったんだな。

 

■他にもいろんな演出があります
西宮さん側の世界を描くために、フキダシの中のセリフが半分しか見えていません。

例えば「洋」という字が「羊」までしか見えないわけです。(わかりにくいですね…)私なんかは英語がわからないのですが、そんな感じです。まわりの人が何かしゃべってる。笑ってる。言っている単語はちょいちょい聞こえてるけど、正直よくわからない。みんなの表情や動作、なんとなく聞こえる言葉から、「??」と思っていながらも、その場を取り繕う愛想笑いしかできない。

西宮さんの毎日がどれだけ薄氷のようなものだったかが、怖いくらいに伝わってくるシーンです。

 

■まとめ
少年誌で連載しているわりには繊細な物語なので、私の周りのマガジン読者からはそんなにウケていない感じなのですが漫画好きの方なら。作者の本気がみてとれる、日常の中の苦悩に満ちた意欲作です。


12/17に第7巻が発売しますが、それが最終巻になるということです。
ラスト、そして次回作が楽しみです。